誤解を与えかねない迷著 「私はうつ」と言いたがる人たち
おはようございます、もしくはこんにちは、またはこんばんは。ガッツ(@guts_0773)です。
今日も「うつ病」に関する書籍の書評です。
そしてタイトルからわかるかと思いますが、今回も辛口書評です。
うつ病の否定的な書籍第二弾
『「私はうつ」と言いたがる人たち』
です。
価格:660円 |
以前の村松太郎氏の「『うつ』は病気か甘えか。」以降、うつ病の否定的な書籍も読んでみようと思い、中古書店で見つけて購入したものです。
内容的には当事者の私から見て賛成できる点3割、賛成できない点7割という感じでした。
以下で詳しく見ていきます。
「うつ病です」と言わないでという人たちの存在
同著を読んで感心した・賛同した点が、
病院を受診した人の中に「うつ病」の診断書を出さないでほしい
と希望する人が一定数いるということである。
どういうことか?
うつ病をはじめとする精神疾患の存在や危険度が広く知られるようになって随分経つが、日本の企業の9割以上を占める中小企業においては、まだまだ偏見を持っている企業も多い(私がいた会社もそうだった)。
そう言った会社に勤めている方や非正規雇用の人の中には、「うつ病」という診断が下ることで、不当な扱いを受けたり休業補償が受けられず収入が途絶えてしまうため、休みたくとも休めない人が一定数いるということだ。
断っておくが、病気を理由に不当な扱いをすること(解雇など)は労働基準法に抵触する行為である。
そのような状況に置かれて、病気なのに十分な治療ができずに最悪のケースを迎えてしまう人たちがいるということを提示したことは、うつ病患者にとっては救いの光だろう。
その点については私も賛同する。
うつ病は「普通の病」なのか
しかし一方で最終章で著者はこうも言っている。
うつ病は、ふつうの病気だ。
ふつうにだれもがなるが、多くの場合は、ふつうに治療すれば、ふつうに回復する。まわりの人たちも、基本的にはふつうの病として扱えばよい。
もちろん、「ふつう」というのは「たいしたことがない」という意味ではないし、場合によっては遷延や再発もありうる。しかし基本的には、うつ病は「ふつうの病」であることを、本人にも周囲の人たちにも、そして社会にも、きちんと認識してほしいと願っている。
「私はうつ」と言いたがる人たち 192〜193ページより
前半部分、誰もがなるが適切な治療をすれば回復する病、というところは否定しない。
だが、だからと言って「ふつうの病」なので特別な扱いをするまでではないというのは、どうだろうか?
うつ病は重症度にもよるが、最悪の場合「死にたい」「消えていなくなりたい」と思わせる(死生観)ほど、精神に影響を与える病である。
うつ病と自殺については因果関係を科学的に証明することはできないが(うつ病で亡くなった人がそれが原因で亡くなったかどうかは証明できないため)、少なくとも影響を与えるということまでは通説となりつつある。
下手をすれば命に関わるような病を「ふつうの病です」と言っていいのだろうか?
私はそうは思わない。
早い段階で治療できればよいが、それができない人たちがまだまだいることは著者自身が同著で言っている。
であるならば、初期の軽い状態で治療ができるように世の中に提言していくことこそが、必要なのではないだろうか。
少なくとも「ふつうの病です」と誤解を与えるようなことを軽々しく言うべきではない。
「うつ」を利用しようとする人たちの存在
なぜ著者はうつ病を「ふつうの病」と言うに至ったのか?
それは同著の中に出てくる
「うつ病を利用して自分の要求を通そうとする人たちがいる」
と言う、著者の普段の診療の経験からくる記述にあると思われる。
同著の中には
・「うつ病」を理由にして会社に待遇の改善の要求をする社員
・「うつ病」を理由にして恋人との関係を改善しようとする患者
などなど、うつ病を利用しているのでは?と思わされる人が何人か挙げられている。
著者が
『「私はうつ」と言いたがる人たち』
というタイトルで同著を書いたのはそう言った人たちとの出会いがあったからだと思う。
そしてそう言った人たちのせいで被害を被っている人間がいるから
「うつはふつうの病である。特別視する必要はない」
と言う結論に至ったのでは?と言うのが、同著を読んだ上での私の結論である。
同著の落とし穴
だが、同著を読んでみると、著者の普段の診療の経験上からの記述は多々あれど、他の医師に同様の患者がいないかの聞き取りをしたかどうかなど、第三者からの意見がないことに気づく。
他の医師から同様の意見やケースが報告されているならまだしも、著者の経験のみで語られていると言うことは、著者の主観に基づく一方的な偏見の危険性も否定できない。
一個人の私的な思い・感想として抱いているだけならともかく、「書籍」と言う形で世の中に出すのならば、影響力も考えるとせめて他の医師に同様の
「うつを利用している人たち」
の存在とその割合を聞くべきではなかっただろうか?
でなければ
「うつと言いたくても言えない人たち」
や
「本当にうつ病で治療が必要な人」
を雇用する側の人間が、同著を自分達の都合のいいように解釈し
「それはうつ病を自分の都合の良いように利用しようとしている。うつは普通の病気だ。」
と、かえって治療を必要とする人の要求を拒否する口実になりかねない(私も実際に精神疾患の診断書を会社に突っぱねられたときに、同著から読み取ったと思われる理論を言われた)。
本当に治療が必要な人が適切な対応を受けられなくなるかもしてない、そんなことを著者は望んでいるのだろうか?他ならぬ、医師である著者が。
情報は鵜呑みにしてはいけない
当事者の私からすれば、以上のように賛同できない部分が多い書籍であった。
繰り返しになるが
「うつは普通の病気ではない。場合によっては命に影響を与える可能性のあるのもだ」
と言うことと
「うつを利用する人間がいると言う同著の言葉を鵜呑みにせず、医師の診断に従った初期段階での治療の普及と精神疾患への理解」
を私は声を大にして言いたい。
「情報は疑って見なければならない」
と言うことと
「当事者意識」
の重要性を再認識させられる書籍であった。