辛口書評 「No.1メンタルトレーニング」は果たしてNo.1なのか
おはようございます、またはこんにちは、もしくはこんばんは。ガッツ(@guts_0773)です。
本日のテーマは「スポーツメンタルトレーニング」です。
私自身学生時代(と言っても20年前ですが)、部活でなかなか結果が出せずにいたのを、スポーツメンタルトレーニングに出会って結果を残すということに成功した経験があるのですが、その頃に比べて今は「スポーツメンタルトレーニング」「メンタルトレーニング」をテーマにした本も数多く出回るようになりました。
そこで本屋に並んでいるスポーツメンタルトレーニングの本を何冊か選んで読んでみたのですが、当時と内容がかなり変遷してきているので、内容についてレビューしていきたいと思います。
なお今回も辛口で書評させていただきます。
発売から10年経った今も書店に並ぶ本だが・・・
今回取り上げる本は 出版・現代書林 著・西田文郎 「No.1メンタルトレーニング」です。
No.1メンタルトレーニング 本番で最高の力を発揮する最強の自分をつくる [ 西田文郎 ] 価格:1,980円 |
大体の本というのが、発売から何年かすると(早いものでは2〜3年で)絶版になって消えていってしまうものですが、こちらは初版が2010年と10年以上前の本なのに対し、いまだに書店の店頭に並んでいます。
Amazon等のレビューも高評価が多く、さぞわかりやすく実践的な本なのだろうと思い購入して読んでみました。
ですが読んでガッカリしました。
果たしてこの本でメンタルが強化でき、本番で結果が残せるのか?
そう思わざるを得ない内容でした。
以下で詳しくみていきます。
内容が薄い
この本に書いてあることを要約するなら三行で終わりです。
①プラス思考や前向きな言葉等を繰り返すことで脳を騙し、自分をポジティブに変える
②気を溜め、気を練り、気を締め、気を爆発させる
③最高の精神状態であるゾーンに持っていく
細かな説明が250ページ近く書いてありますが、この本が言いたいことはこの三点です。
これのどこが「メンタルトレーニング」なのだろうか。
確かに読んでいて文中に
「ルーティーンによる気持ちの切り替え・集中」
や
「自己成長のための目標の正しい立て方」
など、他のメンタルトレーニングの書籍に見られる記述も見られました。
だが大半を占めるのは、脳と心の関係性と
「気を溜め、気を練り、気を締め、気を爆発させる」
という著者が主張する『三気法』と呼ばれる手法となっている。
早い話、脳科学と独自の精神論で構築されており、メンタルトレーニングとはおよそ呼べない内容となっているのだ。
この方法は読者に通用するのか
実用書において大切なのは
「どれだけ読んだ人の役に立てるか」
という点である。
そう言った観点でこの本を読んだ時、どうであろうか?
まずは先に挙げた
①プラス思考や前向きな言葉等を繰り返すことで脳を騙し、自分をポジティブに変える
について考えてみよう。
これについては正直、異を唱えたい。
なぜなら、全ての人がポジティブな言葉や行動でポジティブになれるとは限らないからだ。
確かに根拠のない自信で前向きになれる人間もいる。そういう人なら、ポジティブな言葉や行動を続けることでポジティブにもなれるだろう。
だが世の中そんな人間ばかりではない。
私もそうであるが、毎日の失敗と成功の積み重ねを経て自信に繋げ、結果ポジティブになる人間だっている。
そう言った人間にはこの手法は効きにくい。
最初のポジティブな言葉を投げかけた段階で、言葉に自信が持てず、疑問を抱き、言葉を受け入れられないからだ。
具体性に欠けるのもを伝えるのは困難
次に
②気を溜め、気を練り、気を締め、気を爆発させる
というこの本独自の手法「三気法」について考えてみる。
これについても途中途中に他のメンタルトレーニングの本に出てくるテクニック
・腹式呼吸による過緊張の緩和
・理想のフォーム等をイメージして身体に変化を起こすイメージトレーニング
といったものも出てくるのだが、一方で
「身の回りから『気』を取り込む」
「『感動力』が気を沸き上がらせる」
「身の回りの人への『感謝』が気につながる」
などスピリチュアルで抽象的な表現も多い。
私が読んだ感想から考えられる答えとしては、他の書籍に書いてある
「モチベーションの維持」
「イメージトレーニングによる理想状態の体現化・本番と練習の境界を無くすことによる過緊張の防止」
「ベストパフォーマンスの再現による能力向上」
にあたるのではないか?との推測はできた。
だがそれが正解との確証が持てなかった。
要はこの本を読んだだけでは
「三気法」の正確な実現
ができないのだ。
正確に実現できないのなら使うことはもちろんできない。
認識が間違っている
では残った
③最高の精神状態であるゾーンに持っていく
はどうか。
これについては著者が主張する定義に明らかな間違いがある。
著者はゾーンのことを同著の中で
集中とリラックスという一見反対のものを同時に実現すること
と説明しているが
「リラックス」の反対は「緊張」
である。
そしてこの「リラックス」と「緊張」の関係性(同時に実現させること)は他の書籍では
「理想の集中状態」
の説明で使われている。
この文から読み解く限り、著者のスポーツ心理学の理解度は曖昧であり、誤解を抱えたまま独自の理論を展開していると言わざるを得ない。
正解は一つではない
著者は同著で
「三気法」はゾーンの特徴である集中とリラックスを同時に実現する方法である
と言っているが、前項で挙げたように「ゾーン」=「理想の集中状態」とするならば、『三気法』などという抽象的でわかりにくい方法を使う必要などない。
他のメンタルトレーニングの書籍には、集中力を高めるための方法を具体的に書いたものなどいくらでもある。それを読んで実践すればいいのだ。
わざわざ抽象的でわかりにくい「三気法」などという、訳のわからないものをやる必要など全くない。
そもそも
「最高の状態に持っていくには『これをやればいい』という唯一絶対の答えを提示する」
のが間違っているのだ。
万人に通用するメンタルトレーニングなど存在はしない。誰にでも通用する方法なんてあったら、今頃日本中世界チャンピオンだらけだ。
だが現実はそうではない。同じことをやってもうまくいく人間とそうでない人間がいる。当たり前である。皆生まれも育ちも違う人間なのだから。
10人いれば10通りのメンタルトレーニングの仕方がある。その人にあったメンタルトレーニングを数多くの理論の中から選び、実践し、パフォーマンスを上げていく。そのために多くのスポーツ心理学理論があり、メンタルトレーナーがいるのだ。そのことを忘れてはならない。
そう言った点から見れば、残念ながら同著に「No.1」の称号は相応しくない。